オーストラリアで女性殺害相次ぐ 首相「加害者に焦点を」

先週末、オーストラリアの各都市で女性に対する暴力に抗議するデモが行われた。デモにはオーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相も参加し「DVは国家危機」だと述べた。

今年に入ってから、オーストラリアでは28人の女性が当時または過去の交際相手および配偶者によって殺害された。同国の公共放送局ABCによると、前年同期の2倍である。

今年2月、ヴィクトリア州バララットで51歳の女性がジョギングに出かけたまま戻らず、行方不明となった。1ヶ月後に22歳の男が殺害の疑いで逮捕されたが、女性の遺体はまだ見つかっていない。事件の2週間後、同地区で42歳の女性が交際していた男によって殺害された。男は女性を殺害後に自殺したと見られている。4月、同地区で車が燃やされる事件が起こった。焼けた車からは23歳の女性の遺体が発見された。以前に女性と交際していた男が殺害の疑いで逮捕された。これらの事件は同じ地区で起きているが、何ら関連性がない。

4月、ニューサウスウェールズ州シドニーの巨大ショッピングモールにナイフを持った男が入店し、女性5人を含む6人を刺殺し女性8人と9ヶ月の女児に怪我を負わせた。犯行に及んだ40歳の男は警察によって銃殺された。同州のカレン・ウェッブ警視総監は「犯人が男性を避け、女性を狙ったのは明らか」と述べている。

その後も同様の事件は相次ぎ、1週間で3人の女性が近親者によって殺害された。そのうち1件は、亡くなった女性を強姦・ストーカー行為をした疑いで勾留されていた元交際相手が保釈後に行った犯行だった。こうした一連の事件を受けて、オーストラリアで全国的な抗議デモが行われたのである。

オーストラリア犯罪学研究所のサマンサ・ブリックネル研究員はABCの取材に対し、2022年6月から2023年6月で女性が近親者によって殺害されるケースは31%増えたと話している。オーストラリア政府の統計によると、15歳以上の女性の4人に1人が交際相手または家族から暴力を受けたことがあるという。オーストラリア全体の殺人率は人口100万人あたり5.6人と、イングランドおよびウェールズと比べて低い(人口100万人あたり6人)。しかし交際相手や配偶者による女性の殺害人数はほぼ同じで、前者の人口が後者の半分近くであることを考えると、実質2倍といえる。

女性に対する暴力について、オーストラリアの組織が以下のような統計をまとめている。

  • 女性に対する身体的暴力、セクハラ、性的暴力の加害者は男性がほとんどである。
  • 女性は赤の他人よりも顔見知りである人から暴力を受けることが多い。
  • 平均9人に1人の女性が当時または以前の交際相手や配偶者によって殺害されている。
  • 2021年から2022年の間、15歳以上の女性4,620人が家庭内暴力によって入院した。
  • 女性の2人に1人が何らかのセクハラを受けたことがある。
  • 女性は妊娠中に交際相手や配偶者から暴力を受けることが多い。
  • 暴力を受けたことがある女性は複数の暴力事件の被害者になる可能性が高い。
  • 25歳から44歳の女性が死亡する、障害を持つ、病気になる要因として最も多いのは交際相手や配偶者からの暴力である。

首都キャンベラでの抗議デモに参加したアルバニージー首相は「この文化を変えなくてはいけない。態度を、法制度を変えなくてはいけない。被害者に対する政府の対応は不十分だ。我々は加害者に焦点を当てて、暴力を未然に防ぐことに力を注ぐ必要がある」と述べた。その後、女性に対する暴力についての対策を検討する閣僚会議を実施した。

閣僚会議によって決まったのは被害者に対する経済支援と暴力の抑止対策である。

まず、政府は近親者からの暴力から逃げようとする女性と子供の支援として、5年間で9億2500万豪ドル(約9億4200万円)の予算を決めた。政府の支援制度によって、被害者は日本円で約50万円までの支援金に加え、暴力から逃げるための紹介サービスや安全対策を受けることができる。

そして、女性に対する暴力を助長するとしてオンライン上の暴力的なポルノ、子供と若者を対象にした女性蔑視的なコンテンツを取り締まることを決めた。具体的には、AI生成によるディープフェイク・ポルノの禁止、年齢確認のための技術向上への追加資金などである。

また、危険性の高い加害者や常習犯に対する警察の対応を改善するよう検討するとも述べている。

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