ボディポジティブ運動の虚構 – 身体の価値は誰が決める?

ウエストのサイズを測る女性

多様な身体を尊重しようという「ボディポジティブ」の運動が各国で広まっています。しかし、ムーブメントだけが一人歩きして、当事者を置き去りにしてしまってはいないでしょうか。そもそも、そんな運動は必要なのでしょうか。

スペイン政府が発表した、豊満な身体の女性が海辺ではしゃぐ姿を描いたポスター。スペイン語で「私たちにも夏は来る!」というメッセージが書かれています。政府が啓蒙するボディポジティブ運動の一環として制作されたこのイラストに、実在する3人の女性の写真が素材として無断使用されていたことが、本人たちの訴えで明らかになりました。

写真は本人の許可なく使用されただけではなく、義足を消される、癌で切除したはずの乳房を描かれるなど、事実に反する「加工」がなされていたことで問題になっています。女性たちの訴えを受け、スペイン政府とイラストの製作者は謝罪文を公開。加えて、製作者は受け取った謝礼を女性たちと分配することを提案しています。

さて、なぜスペイン政府はこんなポスターを作ってしまったのでしょうか。背景には「女性は痩せていなければいけない」という美意識を植え付けてきた欧米諸国の企業広告と、それに対する猛烈な反発があります。痩せた女性モデルを起用した広告は過度なダイエットを助長するという懸念などから、企業はより多様な体型のモデルを起用する動きを見せています。

Protein World社がニューヨークで展開したダイエットサプリメントのビルボード広告(ビキニ姿の痩せた女性の写真の横に「夏が来るぞ!」という主旨のキャッチコピーをつけたもの)が大きな議論を呼んだのが2015年。2022年に公開されたスペイン政府のポスターは、時代遅れの感が否めません。ポスターを見た女性は「何を今更、そんなこと言われなくても」と思ったでしょう。

自分の身体は他人からジャッジされるものではありません。水着を着て良いかも、堂々と歩いて良いかも、自分が決めることです。多様な身体を尊重しようという運動は当事者の意思あってこそ。リアルなメッセージであれば、写真の無断使用と行き過ぎた加工もなかったはずです。

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