南米コロンビアで4月、フェミサイドにより母親を亡くした子供への経済的支援を定める法案が可決された。フェミサイドとは女性であることを理由とした意図的な殺人を指し、加害者の多くは被害者の夫や交際相手の男性である。法案では国が被害者の葬儀費用を援助することに加え、被害者の子供に無償で精神的ケアを提供し、18歳になるまで経済的な支援を行うことが定められている。また、子供が高等教育を受ける場合、または心身に障害がある場合は、経済的支援の期間が25歳まで延長される。
近年ラテンアメリカ諸国(*)で、このような法律を制定する動きが高まっている。国連の報道によると、同様の法案が可決されたのはチリ、ブラジル、アルゼンチンなどの8カ国にのぼる。
ラテンアメリカないしカリブ諸国では、1日に11人の女性が、女性であることだけを理由に(多くの場合男性によって)殺害されている。コロンビアだけでも、2019年から2024年の間に1,700人以上の子供がこのような事件によって母親を亡くしている。しかし彼らに精神的なケアは行き届いていない。コロンビアの場合、セラピーやカウンセリングを受けるのに1回44ドルから96ドルがかかる。今年引き上げられたばかりの最低賃金が月323ドルであることを考えると、あまりに高価だ。
フェミサイドにより残された子供は、精神面と経済面の両方で大きな負担を負う。チリのディエゴ・ポルタレス大学が2019年に行った調査によると、被害者遺族(子供)の90パーセントが鬱状態であり、そのほかにもPTSDなどの精神障害を抱えている。また、ユニセフがエクアドルの人権団体と共同で行なった調査では、遺族家庭の72パーセントが食費や医療費を支払うに十分な収入を持っていない。葬儀の費用、親権や裁判に関わる法的手続の費用もかかる。加害者が父親であれば、一家の稼ぎ頭を失うことにもなる。
法案の制定にあたっては、支援の対象を女性被害者の子供に限らず男性被害者の子供も含めるべきだという批判があった。コロンビア議会がそれを受け入れず、法案をフェミサイド事案に特化したものとしたことは、大いに評価すべきである。被害者の遺族が公的な支援を受けることは重要であり、当然の権利として与えられるべきだ。しかし、フェミサイドをその他の殺人と同じものとして扱うことは、社会、文化、経済など幾層にも渡った根本原因から目を逸らし、問題の所在をうやむやにすることに他ならない。
*ラテンアメリカ 中南米およびメキシコ
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