南インド、カルナータカ州政府が6月から女性専用の無料バスの運行を始めました。同州に住んでいることを証明する身分証があれば、女性はいつでも、何度でも、距離に関係なくバスを無料で使えます。
インド国内で女性専用の無料バスを導入しているのはデリー、パンジャーブ、タミルナドゥに次いでカルナータカが4箇所目。デリーとタミルナドゥはそれぞれ都市部と短距離に限っています。区間に制限のないカルナータカの無料バスは画期的な試みといえます。
州政府が女性専用無料バスを導入した目的は女性の労働促進。経済調査機関CMIE(Centre for Monitoring Indian Economy)によると2022年から2023年にかけてインドでの就労率は男性66%に対し女性はわずか10%。世界銀行が行った女性の就労率の調査ではインド23%、バングラデシュ32%、スリランカ34.5%と、隣接国と比べて低い数値です。
女性が労働に従事していない理由は大きく分けてふたつあります。
ひとつは経済的理由。男性優位の家父長社会において収入のない女性は家族などからお金を得ないと移動することができません。たとえ実家暮らしの学生であっても、既婚者でも、寡婦でも同じことがいえます。交通機関を使えなければ自宅から3、4キロほどの徒歩圏内がすべて。「女性たちの生活圏は貧困による見えない線で区切られている」とカルナータカ州都ベンガルールに拠点を置く支援団体は指摘しています。
次に防犯上の理由。2018年デリー大学の学生を対象とした世界銀行の調査が以下の点を明らかにしています。1、女性は通学経路が安全かどうかにより進学する学校を選ぶ傾向にある。より安全であれば評価の低い学校に行くことを厭わない。2、女性は男性より年に18,000ルピー(約3万円)多く安全な通学のために支出している。こういった懸念は女性の就労ないし経済状態に直結します。
カルナータカの女性がすべて生活に困窮しているわけではありません。India Times 紙では、無料バスは年配者や学生に限るべきという女性の声が紹介されています。また、インド人民党(※1)は無料バスの運行をバラ撒きと批判しています。
これまで移動を制限されてきた女性が動き始めることで、労働市場の活性化や公共安全性の改善といった長期的な変化が期待できるでしょう。「移動に対する不安で就労の機会を逃す女性が多数いるということをインド全州が問題視するべきである」とインドで公共政策を調査・分析するNPO団体は述べています。
※1 インド人民党 – BJP, Bharatiya Janata Party 現在の中央政府与党。カルナータカ州はインド国民会議党(INC, Indian National Congress)政権下なので野党に当たる。
※2 CBGA, Centre for Budget and Governance Accountability インド、ニューデリーを拠点とする独立系非営利団体。ジェンダー関連を担当する Shruti Ambast 氏の発言として India Times 紙に引用。
Sources