南インド・カルナータカ州の海岸近く、1日2000人の巡礼者が訪れる聖地で、長年に渡り女性への性的暴行・殺人・死体遺棄が行なわれてきたことが明らかになった。
場所は西ガーツ山脈に位置するダラマスタラ地域。隣接するネトラヴァティ川はガンジス川と並ぶ聖河として知られ、同地域にあるダラマスタラ寺院は800年の歴史を持つ。
今月3日、ダラマスタラ寺院の元清掃員を名乗る男性が警察に出頭した。男性は寺院で働いていた1994年から2014年にかけて、周辺で発見された数百の死体を埋めたという。死体の大半は性的暴行を受けたのち殺害された女性と子供のもので、事件現場を目撃して殺された男性の死体も埋めたと話している。男性は事件の証言者として法的に保護されており、個人情報は明らかにされていない(*1)。
11日に地方裁判所で行った証言によると、男性は1995年に寺院で働き出してすぐに川で女性の死体を見つけるようになった。多くは未成年ないし年少の女性で、衣類を身につけておらず、死体の損傷から受けた暴力の酷さが伺えたという。大半は、強姦されたのちに首を絞められるなどして殺された跡があった。
男性は寺院の管理団体から暴力を受けて口止めされ、死体を「処理」しないと家族全員を殺すと脅された。寺院で働いていた20年間、男性はダラマスタラの様々な場所に死体を埋めたと話している。男性は警察の捜査に全面的な協力をするとし、すでに一部の白骨を発掘、弁護士を通して警察に提出している。
2014年に家族(*2)が寺院関係者から性的嫌がらせを受けたことをきっかけに、男性は一家で住む場所を転々とし、10年以上身を隠してきた。出頭した理由について男性は「消えない罪悪感を抱えて生きている。黙っていることはできなかった」と話している。
カルナータカ州高等裁判所の上席弁護士であるS. Balan によると、ダラマスタラ地域では1979年から殺人と失踪事件が起きている。1980年代には強姦された女性の死体が発見されることが相次ぎ、その度に抗議活動が行われてきた。1987年には17歳の女性の強姦殺人事件に対する大規模な抗議によって、権力者による事件の隠蔽が暴露されたが、脅迫と圧力によって鎮められたと伝えられている。2012年にも同様の事件が起きているが、解決していない。加害者がダラマスタラ寺院を管理する一族の関係者だったからだ。
一族の長、ヴィーレンドラ・ヘガデはインドで一般人に贈られる称号として2番目に位が高いパドマ・ヴィブシャンの称号を持ち、2022年からは与党であるインド人民党(Bharatiya Janata Party, 略称 BJP)の指名を受け上院議員を務めている。一族はダラマスタラ地域で幅広い機関を運営管理しており、強い影響力を持っている。
一連の事件とヘガデ一族の関与は一般のみならずメディアでも取り上げられているが、公的機関による追及は行われてこなかった。最近では、ヴィーレンドラ・ヘガデの兄弟(*3)が一連の事件に対する自身の関与について、名誉毀損に当たるとしてメディア媒体390件に対し記事9000件の削除を求めた。これに対し一般から正当性に欠けるとして取り消しを求める請願書が最高裁に提出されたが、最高裁は7月23日に嘆願を却下している。
現在、カルナータカ政府は特別捜査班を立ち上げ、事件の捜査に向けて動いている。
注釈
*1 男性は最下位カーストであるダリットに属す人物であることが Al Jazeera 紙に書かれている。神職ないし宗教施設の管理は上位カーストが行うものであり、汚物や死体に触れるのは下位カーストの役割とされてきた。本件は支配階層と隷属階層の身分差別の問題でもある。
*2 続柄は明らかになっておらず、「家族の女の子」と報じられている。これも個人情報に対する法的な保護によるのかもしれない( ‘a girl from his own family was sexually harassed by a person connected to the supervisors at the temple …’ アルジャジーラ紙)。
*3 兄か弟かは英語メディアから特定できず。兄も弟も brother である。わざわざ older や younger などはつけない。カンナダ語メディアならばちゃんと書いてあるだろう。