インドの所得格差 英国統治時代から現在まで

インド総選挙の投票が始まった。現職のナレンドラ・モディ首相が異例の三期目を果たすか否かに注目が集まる中、中東メディアAl Jazeera紙が「こんにちのインドは英国植民地時代より不平等か」(Is Today’s India more unequal than under British rule?)と題した記事を掲載している。

記事で取り上げられたのは 今年3月の World Inequality Lab に掲載された「億万長者による支配の隆盛 1922年から2023年のインドにおける所得と富の不平等」(Income and Wealth Inequality in India, 1922 – 2023 The Rise of the Billionaire Raj)。トマ・ピケティら4名の経済学者による共同研究の報告である。それによると現代のインドにはブラジル、南アフリカ、米国以上に深刻な貧富の格差があり、その格差は過去10年でさらに広がっているという。

インドが英国の統治下にあった1930年代、所得上位1%が国民所得の20%超を占めていた。第二次世界大戦時にこの割合は下がり、1940年代は10%をわずかに下回る程度になる。インドが英国から独立した1947年も12.5%に留まり、この傾向は1960年代後半まで続いた。その後、インディラ・ガンディー政権下で旧藩王国への資金提供の廃止や銀行の国有化などの社会主義政策が実施された。その結果、1982年には所得上位1%が国民所得を占める割合は6%にまで落ち込んだ。

しかし1991年の経済自由化によって状況は変わった。所得上位1%が国民所得の15%以上を占めるようになり、ナレンドラ・モディが首相に就任する2014年までにこの割合は20%を超えた。2022年から2023年の間には、所得上位1%が国民所得を占める割合が過去最高の22.6%を記録している。

一方で、中間層が国民所得を占める割合は下がっている。1980年代前半は45%以上だった割合が2022年に約27%となり、所得が最も低い層よりも下降の度合いが大きい。高所得者がさらに富を増やす中、いわゆる中流階級の所得向上が鈍化しているのだ。

史学的観点から格差を研究するマサチューセッツボストン大学の Rishabh Kumar 助教は、グローバル化とインド経済の民営化が高学歴層に有利な状況を作り出していること、インドでは高等教育が富裕層と上位カーストの家系に偏ってきたことを指摘する。

「中間層が成功するには、難関校を受験してホワイトカラーの職につくという賭けに出るしかない」

しかし賭けがうまくいったとしても富裕層との差は大きい。インドの富裕層が1年に得る額は平均年収の2000倍、約4億8千万ルピー(9億円以上)。なお、平均的な額の年収を得られるのは所得上位10%のみで、人口の90%は平均以下の所得で生活しているという。

経済の自由化以降、インドの富は増えた。1991年にインドに1人しかいなかった億万長者は2011年に52人、2022年に162人、現在は271人。中国、米国に次ぐ世界第3位の億万長者大国である。また、2014年から2022年の間、インドにおける億万長者の純資産額は同期間の国民所得の増加率を10倍上回る280%の増加率を記録した。一方で、世界の栄養不足人口の4分の1がインドにいる。2019年から2021年の間、インドでは約3億700万人が食糧難を経験し、2億2400万人が慢性的な飢餓状態にあった。

専門家は肉体労働から賃金の高い職業への転身が難しいことを問題視する。原因のひとつには、エリートの高等教育に特化されてきた教育制度がある。

「四半世紀にわたるインドの経済成長は不平等を土台にしている。無賃金あるいは低賃金の労働者に支えられた経済で、富裕層だけが恩恵を受けているのだ」

貧富の差が広がり続ける現状に対し、冒頭に記した共同研究の著者は富裕層への課税を増やすことを提案する。現行の税制度では、資産が多いほど所得税の徴収率が低くなるからだ。さらに、平等な経済を目指すには教育が重要な役割を担っているという。

「インドは職業に応じて適切な人材を育てる必要がある。市場に則した教育制度を政府が導入しなければ、このまま学校を出ても職に就けない人を生み続けることになるだろう」

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