インド政府・厚生家庭福祉省が2019年から2021年にかけて行なった調査によると、特定の状況下で夫から妻への暴力が正当化できると考える人の割合は男性44%、女性45%。うち「妻が作った食事が不味かった」を理由として選んだのは男性10%、女性14%でした。
妻が夫や義父のために料理を作る姿はインドの典型的な家庭の光景。映画『The Great Indian Kitchen』『Lunchbox』などで見ることができます。妻は何時間も台所に立って働き、食べるのは男性家族が先。妻が食事をするのは彼らが食べ終わった後で、残り物を1人で食べるのです。
何をどう食べるかはその人の心身に影響します。2021年、インド北部3州で18歳から65歳の女性を対象にした研究は女性の自律性が低下していることを指摘。家庭での食事における男女の役割意識を理由としています。また、菜食主義の食生活は動物性タンパクの欠如から貧血及び微量栄養素欠乏を招く恐れも。鉄、ビタミンA、ヨウ素に代表される微量栄養素の欠乏は女性と子供の両方に影響を与えると考えられています。
食にまつわる文化・社会的習慣は単身の女性や働く女性、配偶者を失った女性も例外ではありません。
インド人女性の食生活を特集した Al Jazzera 紙の記事によると、進学や就職で家族から離れて生活する女性が外食することは少なくないといいます。しかし女性は常に集団で行動するものと考えられているため、女性が1人でレストランに入ったり、屋台で食べ物を買ったりすることには偏見があります。
また、インド北東部ベンガル地方では配偶者を失った女性が肉や根菜を食べてはいけないという考えがあります。肉類、ニンニク、玉ねぎといった食べ物は熱を生み出すことから、性欲を刺激し「寡婦を危険にする」と考えられているためです。こうした習慣による栄養不足は深刻で、インドは女性の貧血が世界で最も深刻な国として数えられるほか、配偶者のいる女性に比べ寡婦の死亡率が高いことが調査・研究でわかっています。
一方、料理が女性の生きがいとなることも。ハイデラバード出身のパイヤル・カプール氏は22歳の時に事故で失明。母親の料理を手伝い始めたことがきっかけで、自らと同じ境遇にある人たちに向けて安全な料理方法をアドバイスする活動を行っています。料理は視覚だけではなく嗅覚や触覚に訴えるもの。包丁を持った時のことをカプール氏は「自分が生きていることを実感した」と語っています。
資料 Government of India, Ministry of Health and Family Welfare, National Family Health Survey (NFHS-5) 2019-21
特定の状況下で夫から妻への暴力が正当化できると考える人の割合
- 妻が夫の許可なく外出したとき 男 14.8% / 女19.2%
- 妻が家事・育児をしなかったとき 男 21.9% / 女 27.6%
- 妻が夫に口答えしたとき 男 20.1% / 女 22.0%
- 妻が夫との性交渉を拒んだとき 男 9.8% / 女 11.0%
- 妻が作った食事が不味かったとき 男 10.1% / 女 13.7%
- 妻に不貞行為の疑いがあったとき 男 23.1% / 女 19.9%
- 妻が義理の家族に対し礼節を欠いたとき 男 31.4% / 女 31.7%
対象:15歳から49歳の男女
合計回答者数:男 93,144人 / 女 108,014人