グルーミング犯罪 全国調査へ、イギリス政府動く

先週末、イギリスのキア・スターマー首相が、同国で1980年代から2010年代にかけて多発した児童性的搾取事件の全国調査を行うことを発表した。いわゆるグルーミング犯罪に対する国家的な調査である。イギリス政府は今年1月に一連の事件に関する調査要求を却下していたが、イギリス首都警察が委託した独立報告(*1)にて調査勧告を受けたこと、右派政治家と著名人から圧力をかけられたことで実施へ動いたと見られている。

グルーミング犯罪は男性が少女に近付き、信頼関係を築いたと思わせたのちに仲間へ引き渡し、集団強姦や売春の強要をするものだ。イギリスでは主に北部で多発し、1997年から2013年にサウス・ヨークシャーの都市ロザラムで1,400人以上の児童がパキスタン系移民を主とする加害者から性的虐待および搾取を受けた事件は「ロザラム事件」として国内外で知られている。また、グレーター・マンチェスターのロッチデールでも2000年から2006年にかけて同様の事件があり、事件発生から20年後に加害者の一部に有罪判決が下っている。

イギリス警察の代表機関(NPCC; National Police Cheif’s Council)はグルーミング犯罪の主な加害者は白人男性であるとしているが、パキスタン系移民の集団が大規模かつ組織的な犯罪活動を行なっていたため、警察や政府は人種差別主義者とみなされることを恐れて、この問題に触れることを避けてきた。自国の女性を守るよりも、特定の人種への配慮が優先されていたのは誰の目にも明らかだが(*2)、イギリス政府が人種・民族を把握しているのは検挙した容疑者の37%であり、グルーミング犯罪を人種問題と結びつけるに十分なデータとは言えない(*3)。

中東メディアのアルジャジーラ紙によると、被害者の大半は労働者階級の白人女性だが、家庭環境は様々であった。経済や教育の差は関係ない。中には保護施設で生活する女性や心身に障害を持つ女性など、脆弱な状態にあったも人もいた。ただひとつ共通するのは、警察や保護施設が彼女たちを助けなかったということである。

本件についてアルジャジーラ紙に寄稿したジャーナリストのジュリー・ビンデルは、被害者の母親は警察や保護施設から助けを得るどころか、事件は自分たちが招いたことだと責められたと書いている。加害者の1人は、その後に複数の小児強姦事件で逮捕された。

「メディアの多くはこの複雑な事案を人種、社会的階級、性別のいずれかに関連づけようとするが、それらをひとつの問題として考えようとはしない。確かなのは、子供たちは女だから被害者になった。裕福でないから、警察や行政から無視された。白人だから、標的にされ、人種差別と咎められることを恐れた権力者から『褐色の男と寝る白人少女』というレッテルを貼られた。これは人種、社会的階級、性別、全てに関する問題である。そしてそれらを貫くように走るのが、ミソジニー(女性嫌悪)である」(*4)

最も若い被害者は当時10歳だった。未成年の少女から人間としての尊厳を奪ってまで守るべきものなど、あるのだろうか。

*1 イギリス首都警察(ロンドン警視庁)からの依頼により、イギリス貴族院議員、ルイーズ・ケイシー男爵夫人が調査と報告を行った。ケイシー男爵夫人は報告書の中で、政府に対し調査勧告を行っている。

*2 その配慮も、警察が「アジア系男性による組織的性的搾取」(disproportionate numbers of men from Asian ethnic backgrounds amongst suspects for group-based child sexual exploitation)と言うなど大雑把なものである。「アジア系」と一括りにすることで、様々な人種・民族を同じものとして差別するとは思わないのだろうか。最近はイギリスの左派新聞 The Gurdian 紙も直接的な言及を避けている。

*3 https://www.gov.uk/government/speeches/baroness-caseys-audit-of-group-based-child-sexual-exploitation-and-abuse

*4 https://www.aljazeera.com/opinions/2025/4/5/the-uks-grooming-gang-scandal-is-about-race-class-and-misogyny

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